大津地方裁判所 昭和27年(行モ)1号 決定
大津地方裁判所昭和二十七年(行)第四号村長解職請求者名簿の署名異議申立に対する却下決定取消請求事件の判決確定に至るまで、被申立人が昭和二十七年十一月二十日になした笠縫村村長解職賛否投票に関する告示(笠選委告示第五四号)の効力を停止する。
二、事 実
申立人代理人は、主文同旨の決定を求め、その理由として、陳述した事実の要旨は、
一、訴外山本重孝外一名は申立人が笠縫村長として不適任であるということを主張して村長解職請求運動を起し、その請求代表者となり、一千五十一名の選挙有権者の署名を得て、昭和二十七年九月二十日その署名簿を被申立人に提出し、被申立人はその署名の効力を審査の上八百七十二名の署名を有効と決定してその旨を証明し、同年十月九日から七日間関係人の縦覧に供した。
一、申立人は右縦覧期間中である同年十月十六日被申立人に対し異議を申立てたところ右山本重孝等からも異議の申立があり、被申立人において右各異議について審査の結果、申立人の異議はその一部のみ認容して他は全部却下し、結局八百九十一名の署名を有効と決定し、法定所要数八百四十九名より四十二名超過する旨告示した。
一、しかしながら、被申立人が有効と認めた署名中には、(イ)自署でないと認められるものが七十名、(ロ)正規の委任をうけていない山元辰蔵によつて蒐集されたため無効であるものが三十二名あり、また(ハ)本件解職請求代表者が解職請求書に記載した請求理由たる事実が虚構であるに拘わらず、これを真実と誤信してなした詐偽による署名者であつて、これが取消を申立てた者が二百二十名もあつたので、申立人は関係人として前記のような重大な瑕疵の存在を理由として署名の効力に関して異議を申立てたのであるが、被申立人は十分なる審査をつくさずにこれを却下したので、被申立人は右却下決定の取消を求める本案訴訟を大津地方裁判所へ提起した。
一、ところが、被申立人は上叙解職請求に基き、昭和二十七年十一月二十日になつて、同年十二月十日に解職賛否投票を行う旨の告示をするに至つたので、このまま推移すると本案訴訟の確定前に投票が行われることになり、これがために莫大な費用を支出しなければならず、万一解職に賛成する投票が過半数を占めた場合には申立人は直ちに村長たる職を失うことになつて、回復することのできない損害を蒙むるのみならず、本案訴訟の結果如何によつては不必要になるかも知れない投票を行うことは不当に地方自治の混乱を招き且は目下喫緊の急務である供米遂行にも重大な支障を来たす結果を生ずる等、公共の福祉に重大なる悪影響を及ぼすことになるので右本案判決の確定に至るまで前記公示の効力発生の停止を求めるため本件申立に及ぶというにある。
一、被申立人は、右に対する意見として、本件解職賛否投票に関する告示は、地方自治法に定められた法規上の手続としてこれをなしたものである。本件執行停止によつて、公共の福祉に重大な悪影響を及ぼすに至るかどうかの点については別に意見はないと、述べた。
三、理 由
よつて本件につき執行停止の必要があるかどうかの点について考えてみるに、解職請求署名簿の署名の効力を争う行政訴訟において、裁判所はその有効無効につき実質的な審査を遂げてこれが効力の確定をなし得ることは勿論であるから(改正自治法第八十一条第二項、第七十四条の二第一項、第七十四条の三第三項第四項参照)、本案事件の審理如何によつては、申立人主張の解職請求者の署名が無効なりとの判定をうけるに至るかも知れず、従つて、右訴訟の判決が確定するまでは、本件解職請求の成否は一応不確定の状態に置かれているものといわねばならない。
そして右のような事情の下において被申立人が昭和二十七年十二月十日本件解職請求に基く賛否の投票を行うべき旨の告示をしたことは、申立人提出の疏明資料によつて明らかであつて、右投票の結果解職賛成投票が過半数を制するにおいては、申立人は直ちに村長たるの職を失うに至り、かくては将来本案訴訟が申立人の勝訴に確定した場合、申立人に償うことのできない損害を生ずることは勿論、地方公共団体の長たる村長の地位に不当な空白状態を現出する結果になり、且つは解職請求の成否未定の間に賛否の投票を行うことは徒らに村民間の対立抗争を激化し、村政に重大な支障を来たさしめることになるなど、公共の福祉に重大な影響を及ぼすに至るものといわねばならない。
而して行政事件訴訟特例法第十条第二項にいわゆる処分の執行とは、本案訴訟の目的たる当該行政処分の執行のみならず、右の行政処分を条件として、これに伴つて義務的になさるべき一切の処分の執行を包含するものと解すべきである。
本件解職請求に基く賛否投票の期日がすでに数日の後に迫つている今日において、右投票期日の公示の効力を停止する必要があることは、上来説明の通りであるから、申立人の本件申立を理由ありと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 小石寿夫 西村実太郎 松本保之)